フタバアオイ

地下茎でふえる植物

 植物の生活史を特徴づけているもの,それは繁殖様式と生育型である。フタバアオイの場合は,巧妙な同花受粉による種子の形成と,地下茎を持つ林床性の多年草であること,およびこの地下茎の分枝によって盛んに栄養繁殖を行うことにある。以下,このフタバアオイに特徴的ないくつかの点にスポットを当てて,生活史を見てゆこう。

高須英樹 和歌山大学教育学部講師

地下茎の枝分れ

 フタバアオイの生育している林に入ってみよう。初夏であれば,やわらかな光沢の葉を広げたフタバアオイの様々な大きさの集まりが見られるだろう。こうした集まり(集中斑)はどのようにして形成されたのだろうか。それはフタバアオイの体のつくりを観察してみると納得がいく。フタバアオイは,他の常緑性のカンアオイやウスバサイシンの仲間と比較するとかなり長い(数cmから10cm程度の)地下茎を伸ばして毎年先へ先へと移動していく。一方でこの地下茎は,冬芽を包んでいた鱗片葉の腋からもよく発達して地下茎の枝分れが起こる。こうした枝分れはフタバアオイやカンアオイの仲間には共通して見られる。しかし,フタバアオイではこの地下茎の寿命が5年程度と非常に短いために,枝分れはすぐに切り離されて栄養繁殖が起こる。こうした地下茎の形態的特徴と,さらに葉がすきまなく展開し,他種だけでなくフタバアオイの実生さえもこの集中斑内への定着を許さないことも,こうした集中斑形成に一役買っていると思われる。

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