スミレ

容姿に似合わぬ逞しさ

基本種だけでも70種に余る日本の野生スミレはヤエヤマスミレ(西表島),シレトコスミレ(知床硫黄岳),アツバスミレ(太平洋側),アナマスミレ(日本海側),そしてタカネスミレ(高山帯)など,その多彩さがよく知られている。それだけスミレは,生活の幅が広く,荒れ地でも生育する逞しさを持つ植物と言えるかもしれない。こうしたスミレの力強さは,どのような原因によっているのか,見てゆくことにしよう。

井波一雄 植物研究家

スミレの種子散布戦略

舗装道路の割れ目にスミレが並んで生えているのを見かけることがある。生育地を拡大したスミレは線路の敷石の間にも大小の株をつくって,姿かたちから想像しにくい逞しさを感じさせる。しかしスミレは,他の草との競合は不得意であるようだ。スミレ属の種子散布の方式は,開放花や閉鎖花の果実が横向きから花茎を伸ばしながら上を向いて三分裂し,その各々の口縁に種子を挟み,強くしめつけて遠くに弾き飛ばすことによる。

 こうした種子の飛散は,それぞれの種類について実測されてはいない。しかし約2mは飛ぶと見てよい。これは草体の小ささと比べると,かなり大きな力と言えるだろう。  親株から遠くに放たれた種子は,アリが好む種枕という脂肪分を備えた附属機関を持っており,アリによって運搬されることを期待しているかのようだ。アリはこの栄養分をかぎとり,自分の巣へ運び込むが,中には途中で放棄したり忘れたりして,結局そこで発芽成長して株をふやすことになる。ただ,この種枕をすべてアリに食べられても種子自体には何も損耗はない。種子は飛ぶだけでなく,アリという運び屋によってより遠くへ移動することができるというわけだ。鉢にスミレを育てていても,とんでもないところに芽が出ることがあるが,これはアリの仕業なのである。

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