トチノキ

昆虫の群からマルハナバチを選ぶ

 トチノキはブナ林帯の谷筋の肥沃なところに生える落葉高木で,樹高15~30mに達する。春,トチノキは白い大きな花序をつけるが,花は送粉の効率の高い昆虫に蜜と花粉を提供するため,巧妙な手段をとる。

角谷岳彦 京都大学農学研究科博士課程

雄花と両性花をつけるトチノキ

 トチノキは5月下旬から6月初旬にかけて,長さ20~30cmの円錐形の花序を,1本の木あたり200~400個つける。ひとつの花序には百数十の花が並んでいる。これらの花には雄しべのみを持つ雄花の他に雄しべと雌しべの両方を持つ両性花がある。大部分は雄花で,両性花は通常ひとつの花序に十数個しかつかない。両性花のうち,完全な果実になるのは1割程度であるから,1花序あたり1~2個の実しかならないことになる。

 百数十の花を咲かせて1~2個の実しかできないのは,一見非常に無駄が多いように思える。しかし,両性花の比率を上げて1花序当りに多くの実をつけると実を支えるのが困難になるし,花の総数を減らすと花粉を媒介する昆虫(送粉者)を十分に集めることができない。  トチノキの実は完全に成熟すると直径4cmにもなるため,現実に1つの花序に10個以上もの実をつけた花序は重すぎて台風の季節にまとめて吹き飛ばされてしまう。また,送粉者を寄せつけないように網をかけた花序にできる実は,いずれも成熟した大きな実にはならない。すなわち,トチノキが完全な実をつくるためには送粉者を集めることが不可欠なのだ。そこで果実をつくりすぎることのないように少数の両性花をつけ,魚つりの撒き餌のように多くの雄花をつけているものと考えられる。

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