シラン

原始的な芽生え

 シランは日本・中国に原産し,日当りの良い湿地や傾斜地に自生する。花の色が紫紅色であるところから漢字では「紫蘭」と書く。日本に原産するランの中では最も性質が強く,日向でも日陰でも良く育つので,昔から広く園芸植物としても栽培されている。

西村悟郎 恵泉女学園大学人文学部専任講師

シランの種子

 秋に枯れはじめた果実を割ってみると,中から粉のように小さい種子が出る。息を吹きかければ,たちまち飛び散ってしまうほどの本当に小さな種子だ。顕微鏡で見ると,種子は透明な細胞でできた細長い種皮と,ラグビーボールのような形をした胚からなっていることが分る。種子の長さは1.6mm,胚の長さは0.4mmほどである。  胚の構造をさらにくわしく観察すると,その先端が盛り上がり,葉の原基が分化している。これが子葉である。シランで見られる子葉が他のすべてのランで見られるかというと,決してそうではなく,子葉をもつランはシランの他にソブラリア(So-bralia),ナリヤラン(Arurdina),ツニア(Thunia),ブレチア(Bletia)など,ごく一部のものに限られている。他の多くのランでは胚の先端はなめらかで,子葉のふくらみは分化していない。つまり,シランのように胚が子葉をもつものは,ラン科の中では極めて特異なグループといえよう。

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