チゴユリ

一年草のような多年草

チゴユリは八重桜の咲く頃,人里近い山林の下で小さなクリーム色の花を開く。高さ10~30cmの可憐な姿からチゴユリ(稚児百合)と呼ばれる。落葉広葉樹林の林床や,針葉樹林の林床にも生育し,山地の斜面から谷筋まで広範な環境にわたって分布している。普通群落を形成し,春先上層の樹林の葉が開く前に,落ち葉の間から葉鞘にくるまれた茎を伸ばしはじめる。

小林繋男 農林水産省森林総合研究所研究室長

1年の生活

葉鞘にくるまれた芽は地下に貯えられた養分を使って素早く成長し,葉を5~7枚つけ,茎の長さが20cm以上にのびた個体は1~3個の花をつける。花にはハナバチ類が蜜や花粉を求めて訪れ,花粉を媒介する。1つの花は4~5日でしおれ,1か月もたつと長径4~5mmの緑色の果実が目につくようになる。しかし黒紫色に熟すのは秋も深まった頃で,直径7mmほどの球形の果実は2個の種子を含み,鳥に食われるのを待っているかのようである。

 花の後,上層の樹木の葉がしげり,光の乏しい林床での生活がはじまる。そのころ,地下では1~4本の走出枝(ランナー)が伸びはじめる。乏しい光を使って少しずつ生産された養分を用い,秋までには,走出枝は長いもので60cmも伸びる。走出枝の先端に新しい芽を形成し,果実も養分の分配をうけて熟し散布に備える。  初冬,母植物は果実をつけたまま枯れ,走出枝も先端の芽の部分に養分を転流したのち枯れてしまい,芽は個々に独立し娘個体となって次の春の到来を待つ。

次の記事

オオバナノエンレイソウ