ムラサキサギゴケとトキワハゼ


田んぼと畑に咲く雑草
ムラサキサギゴケはおもに水田畦畔に生育するゴマノハグサ科サギゴケ属の多年生雑草,トキワハゼはおもに畑地に生育する一年生雑草である。水田畦畔では同所的に生育していながら対照的な特性をもっているので両種の生活史を比較してみよう。
木俣美樹男 東京学芸大学付属野外教育実習施設助教授
ムラサキサギゴケとトキワハゼの生活史
ムラサキサギゴケは春に開花すると同時に多数の走出枝を伸ばす。走出枝には花茎もつくが,その後多くの栄養繁殖体(幼植物)を形成する。開花・結実によりできた種子の一部は初夏に発芽し,この個体はロゼットを形成せずに走出枝を伸ばし,秋には花茎をつける。しかしながら,この時期には昆虫の活動が低下しているので,ほとんど種子はできない。一方,夏から秋にかけて走出枝から独立した栄養繁殖体はロゼットを形成し,冬季間に光合成産物を蓄え,春を待つ。トキワハゼの種子発芽には春秋2回のピークがある。秋に発芽した個体は根に光合成産物を蓄積しながら大型のロゼットで越冬し,春に多数の花茎を出し、初夏の頃には種子を散布して枯死する。これらの種子の一部はすぐに発芽し,夏から晩秋まで種子生産を行って枯死する。トキワハゼは個体としては一年生であるが,個体群としては年間を通して存在し,長期間にわたって種子生産を行うので,通年生一年生ということができる。このことからトキワハゼ(常盤爆ぜ)という和名が与えられたのであろう。人為的環境に対応して,一段と進化した一年生植物といえよう。


