ホソバテンナンショウ

昆虫の落し穴
テンナンショウ属の花序を包む苞葉は食虫植物のウツボカズラやサラセニアの葉を連想させる。これは偶然の一致ではなく,サラセニアは昆虫を窒素源として命をつなぎ,テンナンショウは昆虫の命と引き換えに自らの生命を次の世代に引き継ぐため,共に昆虫を捕える必要がある。昆虫を捕えるという共通目的ゆえの形態的類似,進化学の言葉でいう収斂(しゅうれん)が起きたと考えられる。
田中 肇 神奈川歯科大学非常勤講師
花の形態
ホソバテンナンショウの花は仏炎苞の中に立つ花序に密集している。ウラシマソウの項で述べられたように,テンナンショウ属の植物は球茎の栄養状態により,無性←→雄性←→雌性←→無性と株ごとの花の性が変化する。花には花被がなく,雄花は2~5個の雄しべのみからなり,花糸は合着して1本の太い柱となりその先に葯がいくつかついている。雌花は雌しべだけで構成され,子房がトウモロコシの実のように花序の軸に密集し,それぞれの子房の上には白い柱頭がのっている。 花は雌雄とも蜜を分泌せず,雄花には花粉が存在するものの雌花には花粉もなく送粉者のための餌はまったく存在しない。
