ギンリョウソウ

菌類と共に生きる
ギンリョウソウは,日本全土の森林に生育するイチヤクソウ科の多年草である。花だけでなく,茎も葉も純白という特異な植物である。銀龍草という和名も,暗い林床に咲く姿を白い龍に見たてたものであろう。
森田竜義 新潟大学教育学部助教授
キノコを消化する根
普通の植物は,太陽からの光を葉緑素で受け,養分を合成している。しかし,ギンリョウソウは葉緑素をまったく欠くので,光合成はできない。それでは,どのようにして栄養をとっているのかと疑問がわく。実はギンリョウソウの場合,キノコの仲間(菌類)を消化することによって,栄養分を得て,生活しているのである。 ギンリョウソウの根はアメ色をしており,普通の植物の根のように長く伸びず先が丸い。この根は菌根といい,菌類が共生している特殊な根である。菌根の断面を見ると,表面をキノコの菌糸が厚く鞘状に覆っているのがわかる。その下の層がギンリョウソウの表皮だが,菌糸は表皮細胞の間を満たし,時々,細胞の中に侵入している。電子顕微鏡によるくわしい研究の結果,細胞内に入った菌糸は先がふくらみ,そのうちに内容物を吐き出すことが明らかにされている。一見,菌が根を侵しているように見えるが,実際には根に誘い込まれた菌が「食われ」ているのである。菌の種類は知られていない。菌はまわりの落葉などを分解して栄養を得ていると推測されるが,近縁のシャクジョウソウでは菌糸の一部が樹木の根に寄生していることが知られており,菌を介して樹木の栄養を奪っている可能性もある。光を必要としないがゆえにギンリョウソウは普通の植物が生育できないような暗い林床で生活できるのである。
